僕はその存在に、もうずいぶん前から気づいていた。

それは僕の周りを前から後ろに向かってびゅんびゅん通り過ぎて行く。
それは僕のはるか頭上を飛び越えて行ったり、
僕の股の間をくぐって走り去って行ったり、
僕の肩にぶつかりそうになりながら駆け抜けて行く。

それがいったい何なのか。 …僕にはよくわからない。
昔、僕はそれを戻って追いかけて行ったことがあったけど、
それはぼんやりと透けていて、
それでいてものすごいスピードで通り過ぎて行くから、
僕はその輪郭さえも捉えることはできなかった。

でも、ただひとつ言えることは、
それが僕のそばを通り過ぎるときには、
それからとても温かくて優しい匂いがするということだ。

僕はこの匂いが大好きだ。
けれど、匂いがするのは一瞬だけだ。
僕は大好きなこの匂いをもっと嗅いでいたいのに、
それが通り過ぎると匂いはすぐに消えてしまう。
そのことが、僕には哀しい。

もう二度と還らぬそれを想い、
移ろいの時の門の前で、僕は涙を流した。

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